31 2000.07.22-24 ★★ 北アルプス・槍ヶ岳 3,180M ★★

槍ヶ岳登山(2000.7.22〜7.24)
1.プロローグ
西さんと私が槍ヶ岳登山を決めたのは、6月のU山の会の例会のときだった。
西さんが“槍”に登ってみたいと言うと、坪☆夫妻が「ふたりなら大丈夫よ。ふたりで行ってらっしゃい。」と言われた。単純な私達はその一言でその気になってしまい、帰りの電車の中でいつ行こうかと話していた。

2.いよいよ出発
7月22日20時30分、ふたりザックを背負って家を出た。あこがれの槍ヶ岳登山、初めての夜行バス・・・、暗い道を歩きながら、ワクワクした。
22時30分、ビール・酎ハイなど買い込んでバスに乗る。23時、夜行バスの出発だ!
バスは思ったより窮屈で、よく揺れた。明日のために寝なくてはと思うが、なかなか眠れなかった。

3.まずは横尾まで
(1日目)
7月23日5時30分、上高地バスターミナル(1500m)到着。下車すると、肌寒かった。
「登山届けは必ず出してください。」係りのおじさんが、繰り返し呼びかけていた。
西さんはあらかじめ用意していた計画書を手渡した。朝食・洗面等を済ませ、かるく準備体操をして、6時20分、ゆっくり歩き出す。
よく整備されたカラマツ林道を辿って、すぐ河童橋に着く。穂高連峰は雲にさえぎられ、上部は見えなかった。梓川の右岸をすこし歩くと上高地ビジターセンター、その横から小梨平キャンプ場を回り込むようにカラマツ林を進む。右に流れる清水川は六百山からの伏流水で、上高地の貴重な飲料水として利用されているそうだ。身体が少し暖まったところで、すこし歩を速め大人数の中高年登山パーティを追い越す。針葉樹の大木が鬱そうと茂る森の道は、ひんやりとした空気が気持ちいい。しばらく行くと急に視界がひらける。梓川の白い砂礫、対岸にはたくさんの白い倒木、急峻な明神
岳とその頂上付近を走る白い雲が素晴らしい眺めだ。
7時5分、明神分岐(1530m)に着く。予定より10分早い。小休憩の後、徳沢に向けて出発。
林間の道に古池があり、カモの親子が倒木の上に並んで毛繕いをしていてかわいい。
しばらく歩くと、梓川の河原にケショウヤナギがきれいだ。その向こう前穂高岳北尾根の峻険な姿に圧倒される。
道はまた林間となる。右に徳沢ロッヂ、その先の気持ちよさそうな草原はキャンプ場、そして徳沢園(1560m)に8時着。歩きは快調のようで予定より計25分早い。
おいしそうなソフトクリームを横目に、10分休憩の後、横尾に向け出発。
道は梓川沿いになったり、樹林帯に入ったり、そして少しのアップダウンはあるが、全然気にならない。鬱蒼とした林の中にギンリョウソウを発見、カメラに収める。やがて左手に屏風岩の大岩壁が近づいてきて、横尾吊り橋が見えると、すぐに横尾(1640m)に着く。9時3分、まだまだ快調。横尾山荘でチョイスを買って食べる。

4.槍沢ロッヂを目指して
横尾は槍ヶ岳、穂高連峰、蝶ガ岳への分岐点で登山者がたくさんいた。空は白い雲が速く流れ、日差しが強くなる。この先の槍見河原から槍の穂先が見えるかな?!と期待が膨らむ。涸沢へ通じるりっぱな横尾大橋(吊橋)を左に見ながら、槍沢へ向かう。
すぐに蝶ガ岳へと続く登山道を右手に見ながら歩いていくと、道幅は狭くなり、山道らしくなる。針葉樹林の中を進み、河原にでる度に槍見河原?と思うが、穂先はまだ見えない。すれ違う登山者にきくと、もうすぐとのこと・・・、アッここだ、ちゃんと槍見河原の標識がある。「見える!見える!槍の穂先が。」横尾尾根と赤沢山の間に小さな穂先が、霧にかすんでうっすら見えている。ちょっと感激、写真を撮ってまた歩き出す。少し行くと一ノ俣(1730m)の橋がある。橋を渡ったところで10時
5分、ちょうどいい岩に腰掛けて小休止する。
さらに樹林帯を進んでいくと、二ノ俣の吊り橋。センジュガンピの白い花や、ベニバナイチヤクソウの群生がきれい。サンカヨウの紫の実、ヤグルマソウの大小の葉っぱがおもしろい。ゴゼンタチバナの群生は花も葉もきれい。カニコウモリとアザミ、オオウバユリはまだ蕾・・・。 登りが少しきつくなる。「槍沢ロッヂ、あと少しガンバレ!」と木の箱に書いた看板に励まされ、休まず登ると今日泊まる予定の槍沢ロッヂ(1830m)に着いた。
10時43分。ロッヂでラーメンを食べる、おいしかった。
「今11時、次の山小屋・殺生ヒュッテ(2860m)までは約4時間・・・、 休憩をいれても16時には着くかな・・・。」
槍沢ロッヂの人に相談してみた。その人曰く「今日は上も天気がいいから上がって来なさい。上がれるときに行っとかないと、明日はどうなるか分からんし・・・」
エッ?! そんな、おじさん簡単に言うけど、頂上まで行けるのかしら? ウ〜ン、そうだね行ってみようか・・・、なんとかなるかな。

5.今日はいい天気!
11時30分、無料の水を補給してさあ出発! すこし登ると“槍見岩”。「アッ、槍の穂先が見えるよ! ガスってない、ほんとに天気いいんだね!」希望を抱いてゆっくり登っていく。さっきより傾斜がついて、山登りらしくなってきた。
白沢、赤沢を過ぎて、30分ほど行くとババ平(1980m)。昔、槍沢ロッヂがあったが、雪崩で壊れたらしい。今はキャンプ場になって、高校生くらいの男子がテントを張っている。槍沢を挟んで左には横尾尾根が堂々と見え、幾筋もの滝が流れている。
足元に残雪発見、上を見るとチシマザクラがきれいに咲いていた。どちらを見てもきれいな景色の中、ずっと歩いていく。12時15分、大曲(2094m)に着く。槍沢が左に大きくカーブを描いている。右手には東鎌尾根への道が延びて、水俣乗越分岐という。日差しが強くとても暑い。ほんの少しの木陰で休憩。口渇がひどく、ふたりで500mlの水を飲み干してしまう。小2の男の子と、お父さんの登山者に出会う。
12時25分、大曲を出発。左に槍沢の雪渓を見ながら、しだいに傾斜が増し、きつい。ゆっくり、ゆっくり休まず登る。相変わらず日差しは強く、すぐ喉が渇く。コイワカガミの群生、ベニバナイチゴの赤紫の花、遠くにニッコウキスゲの群落も見える。13時5分、やっと天狗原分岐(2350m)に着く。左に天狗原(氷河公園)を経て、南岳に行く道が延びている。水分補給としばしの休憩。
元気を出してまた登りはじめる。幾度か雪渓も横切る。
左に雪渓と滝がきれいな中岳(3084m)、右に東鎌尾根、後に赤沢山(2670m)と西岳(2758m)、雄大な景観の槍沢沿いを、ゆっくり登る。きついなあと思い、後を振り返ると結構急な登りだ。「グリーンバンドと言うところで休もう、傾斜がゆるい所らしい。」と西さんが言う。上のハイマツの緑が見える所かな? なんとか頑張ろう。
グリーンバンドはハイマツに囲まれた気持ちの良いところだったが、風が強かった。
水分補給とバランスデイトを食べる。口の中はカラカラで、ビスケット様のバランスデイトはとても食べ難く、苦笑いした。右上をみると三角の山が見えている。「あれは、槍の穂先なの?」槍見岩からみた穂先とは全然ちがう、でっかい三角の岩山だ。
さあ、出発しよう。ゆるやかなグリーンバンドはすぐ終わり、また雪渓を横切る。今度の雪渓は結構長く、傾斜もきつい。呼吸がハアハアとなる。キックステップで慎重に休まず歩く。雪渓をすぎて少し登ると、播隆上人が寝泊まりしたという坊主の岩小屋(2690m)がある。
そこを過ぎると、ガラガラした岩屑の道になる。右手に殺生ヒュッテ、真上が槍ヶ岳の分岐に着く。水はあと1リットル、「殺生ヒュッテで水を補給していこう。」と西さんが言うので、従う。15時、殺生ヒュッテ(2860m)到着。水1リットル200円、粉末ポカリを溶かす。「水の飲み過ぎで足の筋肉が変だ。」と西さんが言う。15時10分出発。

6.険しい急登
殺生キャンプ場を過ぎると、はるか上部に槍岳山荘がみえる。かなりの急登で、足場もガラガラしている。落石を起こさないよう、注意して一歩一歩登る。右上には、堂々とした槍の穂先がずっと見ていてくれる。呼吸はハアハア、ふくらはぎはかなり疲れている。しばらく登ったところで、小休止。
「きょうのうちに、穂先に登ろうか。」と西さんが言う。今は何も考えたくなかった。
とにかく肩の小屋まで行かないと・・・。「足がだいぶ疲れているから、危ないかも。明日でいいんじゃない?」と答える。
また、辛い道を一歩一歩登る。ときどき立ち止まって槍の穂先をみる。ハクサンイチゲ、シナノキンバイ、タカネツメクサが風に揺れているのをみる。もう少し、もう少し、上ではおいしいビールが待ってるぞ!と自分を励ます。なんども励ます。
やった!!!着きました。肩の小屋(3060m)。16時5分だった。
宿泊の受付をする。人は多いが満杯ではなさそう。だんだんと疲れがとれてくる。
外はとても天気がいい。まだ穂先に登っている人もいる。

7.登っきゃ無い!
「やっぱり今日登ろう。」横浜から来たというご夫婦に、上での様子を聞きながら身支度を整え、いざ挑戦。
午後1番は大渋滞していたという穂先も、いまは幾人かの人が頂上にいて、少しの人が降りて来ている。矢印を確認しながら岩にとりつく。空に雲はなく、風がやや強かった。
岩がしっかりしているか確認しながら手を掛ける、脚を掛ける。三点支持で登る。
鎖場や梯子の取り付けられた急な岩場が続く。下は見ないようにしているが、遠くの山の雪渓が、山並みが目に入ってくる。恐い・・・。気を引き締めて最後の梯子を登ったら、頂上(3180m)だった。
やったー! やっと着いた! おそろしかー! 16時50分。
頂上は畳10畳ほどときいていたが、岩がデコボコして足場が悪く、デコボコ岩の向こうは切れ落ちていた。小さな祠に、無事来れたことを感謝して、手を合わせた。
360度の大パノラマは本当に素晴らしかった。西穂、奥穂、北穂、前穂、蝶ガ岳、常念岳、大天井岳、燕岳、富士山もみえている。鹿島槍、白馬、劔、立山、鷲羽、笠ヶ岳、どこまでも山並みがみえている。頂上には10数人の人がいた。みんないい顔をしていた。心ゆくまで展望を満喫して下ることにした。足場を確認しながら、落石も起こさないよう慎重に下りた。
山小屋について、さっそくビールを飲んだ。おいしいビールだった。
山小屋の夕食はご飯、みそ汁、鶏肉のソテー、サラダ、山菜の煮物、大学芋、パイン缶だった。おいしかった。高山病ではないらしい。
食後は、喫煙所になっている土間で、他の登山者と話した。今までに登った山のこと、山小屋のこと、高山植物のことなど。みんな、今日、槍に上れたことの満足感から、終始笑顔だった。楽しかった。
山小屋は水は無料だったが、歯磨き、洗面等はご遠慮くださいとのことだった。
20時ころ床についたが、隣の布団の男性達のいびきと寝言がうるさくて眠れなかった。

8.山の天気は儘成らず
(2日目)
7月24日4時30分、ご来光を見ようと起きたが、濃霧と強風で大荒れだった。帰りは南岳方面に行こうかと、昨夜話していたが、無理そうだった。
朝食は、ご飯、みそ汁、オムレツ、千切りキャベツ、トマト、梅干し、海苔、山菜の煮物だった。荷物を整え、往路を戻ることにする。
6時30分槍岳山荘をあとにする。霧と強い突風の中、快調に下りていった。お花畑がきれいだった。きのうあんなに大変だった道も、下りは楽だなあと思いながら下りていった。どのくらい行った頃だろう、西さんが遅れだした。膝が痛いという。様子を見ながらゆっくり下りることにする。途中、クロユリの花をみつける。あたりを見回すと、ここにもあっちにも咲いていた。ひっそりと咲いているきれいな花だった。その後も花も見ながら、山を見ながら下りていった。西さんの膝は益々痛そうだった。
槍見岩に着いた。穂先は霧の中で見えなかった。昨日登っていて本当に良かったと思った。11時20分、槍沢ロッヂ着。水分補給、歯磨き、洗面を済ませ、さっぱりした。
昨日、登った方が良いと勧めてくれた山小屋のひとにお礼を言って、出発した。
西さんが、先を歩いた。右足が痛々しかった。天気予報に反し、日差しは強くなったり、陰ったりしていた。
12時10分、横尾に着く。お弁当を食べる。中華ちまき風のご飯でおいしかった。
ジョッキ生ビールも飲んでしまった。
13時35分、徳沢に着く。
15時、上高地バスターミナルに着く。タクシー相乗りで新島々まで行く。
16時、新島々着。駅前の温泉で汗を流し、さっぱりする。
17時18分、松本ゆきの電車に乗る。「昔のアルピニストのように、こんなふうに電車を乗り継いで行くのもいいね。」と西さんが言う。確かに気楽でのんびりとしている。
松本電鉄の電車は、ワンマンで無人駅などでは開くドアが限られていたり、ドアは自分で開けたりなどおもしろかった。
17時47分、松本着。ビール、日本酒、駅弁など買い込んで、18時31分発のスーパーあずさ14号に乗り込む。とても充実した、いい山行きだった。

9.考察
今回の登山の教訓
 @荷物の減量化 (多くても8s位迄)
 ・30Lのザックを購入する。
 ・カメラは1台にする。バッテリー、メモリーカードを購入する。
 ・他の持ち物について再検討する。
 A行動開始前には準備体操をする。
 B休憩時は水分、電解質、ビタミン、カロリーをこまめに摂る。
 Cタクシーを相乗りするときは、料金の支払い等について必ず確認する。
 D日焼け止めクリームはむらなく塗る。
 E就寝前に脚をマッサージする。
 F・・・